「民法(債権法)改正-民法典はどこにいくのか」

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紹介するには気の重い本ですが、紹介するとともにミラーの考えを記したいと思います。
まー、デリケートな問題なのでこの本での内容=加藤先生のおっしゃりたいことと、ミラーの考えを明確にわけて記述することとします。

■ この本で加藤先生がいっていること。

まー、要点はなんてんかあるのですが、
① 債権法改正の中身がおかしい
 たとえば、債務不履行責任よる損害賠償責任の帰責根拠を過失責任に求めない、つまり過失責任主義を放棄するといったことについて異論を唱えておられます。

そのほかにも相殺だとか約款だとかいろいろな改正検討事項があります。

② 債権法改正の進め方がおかしい
まー、これはちっと解説が必要なのですが、
2006年10月、民法(債権法)改正検討委員会(以下「委員会」)という組織ができて、 2009年4月に民法抜本改正の基礎となる『債権法改正の基本方針』(以下「基本方針」)というのが出されています。

2009年10月 債権法改正について法務大臣が法制審議会に諮問。法制審議会の民法(債権関係)部会というところで審議がされます。それでめでたく、2011年4月12日 「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理」(以下「論点整理」)というのが出されて、いまパブリックコメントの手続きが取られています。通常だと、このあと改正要綱ができて、それが、内閣提出法案(条文化するのは法務省民事局。内閣法制局とかもチェックをする)になって、国会にかかるという流れが予想されます。

大事なことは上記の委員会というのは、私的な機関なわけです。建前としては学者がつくった研究会で、法務省民事局の人も情報収集のために参加するということになっています。しかし、実態は、事務局長は法務省の人です(元はT大の民法の先生)。実質は、法務省の機関みたいなものです。そのあとの法制審議会の部会でもその基本方針が実質的にはたたき台になっています。先生はその進め方についていろいろと問題を指摘されていますが、学者と法務省だけで実質的にたたき台を作り(委員会の段階では産業界や弁護士会はいれなかった)、形式的に法制審議会にかけることによって(この段階では産業界代表や銀行界代表や弁護士会代表もいるけど委員の数としては少ない)、法改正を進めるというやり方について疑問を呈されています。
「だったら、最初の委員会の段階から産業界や弁護士会の意見を聞いたらええやんけ」とみんな思いますが、委員会の段階で、弁護士会や産業界が「入れてくれ」といっても「私的な機関だから」といわれて断られるわけです。
加藤先生は、いろいろな手段をもちいて、委員会や審議会が事務局主導で結論付けられていく様子を紹介されています。


③ 債権法改正の目的がおかしい
たぶん、一番問題なのはこことです。改正の目的として大きなのは「国際的潮流にあわせる」ということのようです。「法律をわかりにくくしてまで英米法との統合をはかる社会的必要はないのに、近時の欧米がそうだから、というだけの理由で、現行法より質の悪い民法に変えられようとしている」と批判されています。

先生は、そこまでして、改正を進める裏の理由として法務省民事局の利害をあげておられます。要するに、この10年くらいで、大幅に立法担当のスタッフが増えているのですが、仕事がないと人員予算を減らされる。そのために大きな仕事に取り組まざるをえない。倒産法,会社法ときたら次は民法・・・といったことがあるのではないか。また、消費者契約法ができたが、この所管は今は消費者庁・・・。こういうこともあって民法に消費者保護的な規定をいれて失地回復をしようとしているのではないかといったことを指摘されています・・・・。加藤先生こんなことを本で書いて大丈夫なのだろうかとも思いますが、大事な指摘といえましょう・・・。
(以上がこの本を読んでミラーが理解した先生の主張の内容ですが、ミラーの学力不足で誤解があったり、要点を外しているかもしれませんが、おおむねそういったことがこの本から読み取れました。)

■ミラーの考え

以下はこの本を読んで私が考えたことです。加藤先生がこの本でそういっているわけではありません。
① 進め方について
 先生がこの本で書いてあるのは、まず、その通りだと思います。パブリックコメントの締め切りは8月1日だそうです。ようするに4月に出た論点整理について数カ月で意見をまとめてもってこいということなのです。論点整理本体は208頁。補足説明は488頁あります・・・。
産業界で考えると、個別の会社では意見を出すところはあまりないでしょうから業界団体で出すことになるでしょう。これを各社に配って検討の会議を行って、意見をまとめて・・・。かかりきりだといいかもしれませんが、みんな仕事があるでしょうに・・・。


部会の議事録をみると、業界団体についてはいろいろとヒアリングも行っているようです。多くの業界団体では自分の会社に関係する論点に絞って意見をまとめているようです。それも、「こういった事情があるのでもうちょっと細かく検討してほしい」みたいな論調です。このままでは、「パブリックコメントで意見は聞いた」との建前のもとにいまの方向で進んでいってしまいます・・・。
その中でも、とくに特筆されなければならないのは自動車工業会の意見書です。
http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900078.html
自動車工業会の意見書は「なんでいま、債権法改正が必要なのか」ということをするどく問うています。また、個別の論点についても多くの論点についてするどい意見をいっています。たとえば、相殺の遡及効を維持するやいなやといったことについても実態に合わせた意見を述べており、大変勉強になります。団体の事務局と会員各社の法務担当者が集まってまとめたのでしょうが、震災もあったなかで忙しかったでしょうに、尊敬に値する意見書であることを特に述べておきます(ほかの業界団体の意見書でもよいものはあったが、改正の目的についてちゃんと意見を述べているものは少なかった)。

だいたい、ヒアリングするんだったら、最初から産業界ももっと大人数を審議会によんでくれればと思います。


② 目的について

この本を読んでミラーが考えたのは、「債権法改正で誰が得をするのか」ということです。

世間では、委員会でも審議会の部会でも中心的役割を果たしているU法務省経済関係民刑 基本法整備推進本部参与(それにしても長い肩書だ・・・)の個人的野望に問題を矮小化する傾向もあるようです。しかし、U先生は本を書いて儲けようとか、改正に関与して穂積先生をしのぐ名声を手に入れようとか、そういったケチな料簡で改正を進めているとは思えません(恩師なので(といっても講義にでたことはほとんどない)フォロー・・・)。あくまでも学者の人たちは、学問的良心に基づいて検討していると思いますが(いくらなんでもそこは信じたい・・・)、それを裏で一定の方向に導いているどす黒い力があるような気がします・・・。

この本ではあまり触れられていなかったのですが、債権譲渡の対抗要件について、従来は民法では通知・承諾になっているのを、登記に一本化しようという流れで検討が進んでいるそうです。

ひとつは、加藤先生が指摘されているとおり、法務省の利害というのがあります。
たとえば、債権譲渡の登記については、どう考えても登記の件数が増えれば法務省の予算も人員も増えるでしょう・・・・。

そのほかに、アメリカと同じような制度になるわけですから外資はメリットうけるわけです。実際、在日米国商工会議所は、以下のような要望をしています。

http://www.accj.or.jp/doclib/vp/VP_CCLO.pdf

独禁法における純粋持ち株会社の容認、郵政民営化会社法三角合併ロースクール、派遣法の緩和・・・・。
こういったこの間の立法が「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」という形で、アメリカから強い要望があったのは、公然の事実だと思います・・・。
本邦の産業界で債権法改正という強い意見があるというのは聞いたことがありません。

債権法改正について外圧みたいなのはあったのでしょうかなかったのでしょうか・・・・・・。

欧米にあわせるというと賛成してくれそうな学者を集めて外圧にこたえる案をつくって、その中に法務省の権益拡大に関する規定もまぎれこましているというとうがちすぎなのでしょうか・・・。

これがいずれ法案になるのでしょうが、理論的にちゃんと論理的に反対できそうな政治勢力というのはあんまりないような気がします。
共産党には「対米追随立法だから反対」といってほしいような気がしますが、論点整理のなかには、約款の規制とか消費者保護に関するものも入っているので、幻惑されるかもしれません・・・・。

椿先生をはじめとする先生方は、「大震災もあったし、何年か改正手続きを凍結すれば」という意見を発表されています。
http://minpou-kaisei.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-f261.html

椿先生のおっしゃるとおり、時間はかかってもいいので、まずは、本当に債権法改正が必要か議論をしてほしいとおもいます。(それ以前に椿先生80歳をこえ、まだ元気であることに驚き・・・。いま、WIKIをみてはじめて知ったけど香川県出身だそうです)