運用3号問題

ひさびさに年金で腹の立った問題でありました・・・。中止になってほっとしています。

■なにが問題か

かんたんにいうと、国民年金の3号被保険者から1号被保険者(以下、長い
ので、たんに1号という場合がある。2号、3号も同様に略す)への移行の
手続きを忘れて(あるいは故意にしなかった)しまっていて、払うべき年金
を払ってなかった主婦(主夫の場合もあるかもしれないが、多くは主婦(以
下同じ))の年金が少なくなってしまうので、かわいそうだから救済してあ
げましょうという制度なわけです。くわしくは、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110225-00000075-mai-polなどをご覧
ください。



■想定される典型事例

パターン①

夫サラリーマン(厚生年金被保険者=国民年金でいうと第2号被保険者)。
妻専業主婦(国民年金第3号被保険者)。この場合で、夫が会社をやめて、
自営業をはじめる。そうすると、妻は第3号ではなくなる(なぜなら3号は
2号の被扶養配偶者だから)。要するに1号の被扶養配偶者は1号になるわ
けです。3号は保険料を自分では払わなくてよい(その分、夫は厚生年金を
はらってるから。これもそれでいいのかという議論があるけどそれはここで
はおいとく)けど1号は自分で保険料を払わないといけない。本来ここで、
届出をして、「1号になったからこれから保険料を払います」といって払え
ば問題ないのですが、そのままにしているとその期間、保険料未納になるわ
けです。

パターン②

夫サラリーマン(厚生年金被保険者=国民年金でいうと第2号被保険者)。
妻専業主婦(国民年金第3号被保険者)。ここまでは①といっしょ。
妻が、働きに出たパターン。妻の年収が130万を超えてしまった場合。被
扶養配偶者でなくなってしまいます。そうすると、妻は3号ではなくなりま
す。いろんなパタ-ンがありますが、もし、1号に妻がなるべき場合、これ
もこの時点であまり認識がなく、届出をしないと保険料未納になるわけです


ほかにもパターンはあるのかもしれませんが、多くがどちらかだと思
います。


■救済しなくてもよい理由

いろいろ調べると役所が、このパターン救済しようとしている理由は、「窓
口が混乱する」「届出が必要なことを役所が周知してなかったから手続きを
してない人に責任はない」といったことのようです。

まー、わたしからすると、「寝言は寝ていえ」としか言いようがありません

以下私の考える救済しなくて良い理由を述べます。

・パターン①の場合
 ご丁寧に下の参考文献にあげてあるQ&Aには、「サラリーマン家庭にお
いては、社会保険関係の諸手続が会社任せになっていて、どのような場合に
どのような届出が必要なのか、正しく認識されていない」とか「妻の生活実
態に変更がないので、手続きを忘れていても気づかない」とかいろいろ言い
訳が書いてあります。
でも、パターン①は夫は自営業になったんだから、自分で手続きをするか社
労士さんに頼むかすればいいだけですし、生活実態に変化がないといったっ
て、妻の健康保険は、当然、国民健康保険になっているはずです。そうする
と当然「健康保険を切り替えたんだから、年金も切り替えちゃーうんか」と
思いを致すべきでありましょう。地方分権一括化法の前は、国民年金の事務
が市町村への機関委任事務で、役場でも国民健康保険の窓口に横に国民年金
の窓口があったところも多かったはずです。当然、窓口で「となりの国民年
金の手続きもしてください」というアドバイスもあったでしょう。もし、な
くとも、「めんどうな法律を知らないから払わなかった」というのであれば
「めんどうな所得税法がわからないから脱税した」「複雑な刑法を知らな
かったので人を殺した」という主張と同じく失当なわけです(多少極端か・
・)。だいたい、年金というのは本来、払うべきものであって、3号として
払ってないのが例外なわけです。一国民として、常に「まじめになんとか年
金保険料を納めさせていただこう」という姿勢が必要なわけです。そういう
姿勢があれば夫が開業した時点で問い合わせを役所にしたはずです。
別にそういう姿勢がなく「年金なんてどうせもらえないから払わない」とい
う人がいてもそれはその判断として尊重されるべきです。ただ、そのような
人格態度に基づく手続きもれによって年金がもらえないとか、不幸な老後を
送るとか地獄に落ちるとかいう不利益があってもそれは文句をいわず甘受す
べきでしょう。


・パターン②の場合
このパターンの前提として、被扶養配偶者から妻が外れるという条件は年収
130万以上ということです。だいたい、そんなに収入があるんだったら、
その働いている会社で厚生年金に入れてもらえばいいではないかと思うわけ
です。
パートさんについての厚生年金加入は、「パートなど短期間就労者について
は、勤務日数及び勤務時間がそれぞれ一般の従業員の概ね4分の3以上の方
」と日本年金機構(変換してたら、日本年金奇行という誤変換がなんかいも
でてくる。たしかに改名したほうがよい)のHPに出てきます。

たとえば、1日の勤務時間が通常の社員8時間の場合、パートさん6時間か
つ、勤務日数がパートさんは通常の社員の8割(年間でいうとだいたい勤務
日数200日くらいか)ということで考えると、パートでも厚生年金に入る
人は年間1200時間くらいの勤務時間はあることになります。

130万÷1200=1083.3333

なにがいいたかというと、パートで年収130万を超える(夫の扶養でなく
なる)のに厚生年金に入る対象にならない(通常の社員とくらべて勤務日数、
時間が4分の3未満の)人というのは、時給が1080円を超えるような人
(その他にも、業種によってとか、季節的業務に従事とか適用除外はあるし、
勤務日数が週3日で労働時間が長いという場合のように、時間数は多いけど、
勤務日数が少ないとかのパターンもあるかもしれませんが・・・。)であることが

わかります。こういう人はあんまり多くないと思います。

要するに、「パートで130万円を超えるような人は、その勤務先の厚生年
金に入れてもらえばいいやないか。もし、要求してもいれてくれなかったの
であれば、それは会社の責任。年金財政に責任を取らせるな」といいたので
あります。多分、多くの会社では、「パートやから年金入れんねん」といっ
ていた場合が特に昔は多かったと思いますが、それは、年金当局側の問題で
はありません。(ひょっとしたら、昔は、パートさんの厚生年金加入が法律
上もっとハードルが高かったのかもしれない可能性は残ります)

まー、厚生年金の場合、適用除外とかもあるので、どうしても妻が厚生年金
に入れなくとも、130万を超えた時点で、自分が被扶養配偶者から外れた
ことは認識できるはずです(パターン①といっしょで、国民健康保険の手続
きはしたはず)。やっぱり手続きをすべきとそこで認識するはずです。

妻が自営業を始めて扶養から外れたのであればパターン①と同断です。

あと、気になるのは「教えてもらえなかったから手続きしなかった」という
人格態度なわけです。たとえば、市役所とかのお知らせを熟読玩味すれば、
そういった知らせが出ていたはずですし、夫、妻のいずれかは、やはり役所
に問い合わせをすべきだったでしょう。
たしかに役所の周知も足りなかったかもしれませんが、無知だったという理由
でまともに払ってた人とおんなじ条件で本来支払うべき保険料を払ってない人
が年金を受け取れるというのはおかしい気がします。無知であることはしかた
がありませんが、その不利益は本人が負うべきでしょう。

たとえば、税金でもいろいろ特例があって、「手続きしてなかったから多く
税金を払うことになった」という人は多いはずです。「税務署の周知不足だ」
といえば返してくれるのでしょうか。

そこらの九九のできない高校生とか、分数のできない大学生とかが年寄りに
なって「おれたちは自分の名前がが書けないから、届出ができなかった。だ
から年金払えなかった。役所のせいだ。年金を他の人と同じように払え」と
言われたらどうするのでしょうか・・・。

■そもそもなんで運用3号をやろうとしたのか


問題はここです。要するに、払うべき保険料を払ってないのに年金だけ受け
取れるというとんでもない制度がいつのまにか始まっていたことが問題です

厚生年金保険法には、「手続きしなかった1号を3号とみなして年金を払う」
なんてどこにも書いてないわけです。私たちの年金なわけですから、勝手
に無権利者に払うわけにはいきません。本来法律を改正すべきです。

でも、今回は、「厚生労働省年金局事業企画課長通知(平成22年12月1
5日付け年管企発1215第2号)及び厚生労働省年金局事業管理課長通知
(平成22年12月15日付け年管管発1215第1号)」という一片の通
達で「手続きしなかった1号を3号とみなして年金を払う」が決まったわけ
です。

まー、厚生労働省の役人がどんなに頭が悪くとも(実際、私らの時代でもあ
んまり優秀な人は厚生省にはいかなかった)、その理屈は分かっていたよう
です。下のQ&Aにも「出来る限り速やかな対応」とか「現状の年金記録
(ミラー注、それが間違ったものなのですが・・・)を変更せずに尊重する」
など苦しい言い訳が書いてあります。

まー、私の推測では、「これは大変だどないしまひょ」「やっぱり法律改正
して処理するしかおまへんがな」「そんなことしたらおおごとになるやんけ、
そもそも役所がちゃんと記録を管理してなかったことがばれるやんけ。本来
旦那が、厚生年金をやめた段階で、妻のほうもちゃんと処理するとか、健康
保険と情報共有して処理するとかいろいろやり方はあったのに、やってなかっ
たことがばれてまうがな」「そうでんな」「法律案なんか作って国会にかけた
ら野党につつかれまっせ」「また、マスコミにもでるがな」「こそっと通達で
処理しまひょ」「せやせや」(なぜかみな関西弁)
というような感じではなかったのでしょうか・・・。



ではどうするのかは、法律改正でさかのぼって追納を認めればいいだけでは
ないでしょうか(今はさかのぼれるのは2年が限度)。追納しなければ、合
算対象期間にすれば、不公平はないはずです・・・。

社労士さんたちは、「こういった手続きもれで不利にならないように社労士
に相談を」ということで、ビジネスが広まるのでありましょう。健全な年金
制度の発展のためにはよいことです。

参考 「運用3号」職員向け「Q&A」集 (第2版) 
平成23年1月27日
厚生労働省年金局事業管理課 日本年金機構国民年金

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011je9-att/2r98520000011jid.pdf