職業倫理の話。

書くべきか書かざるべきかちと考えましたが、書かざるを得ないと思い書きます。

我が国を代表する法律雑誌でNBLという雑誌があります。わかりやすくいうと、ジュリストが読売新聞だとすると、日経新聞にあたる権威ある雑誌です。(ひとつのもののたとえです。別に新聞なわけではない)
会社で法務などをやっている人はたいていよんでいるか、少なくともその存在は認識していると思います・・・・

先日その版元の商事法務のホームページをみると
NBL編集倫理に関する第三者委員会設置のお知らせ」
http://www.shojihomu.co.jp/oshirase/20100223.pdf
を発見したのです。
それはなんじゃら。と思って中身を読むとこういうことなのです。

去年の12月の4日に、東京地裁で、例のM証券の東証における誤発注に関する判決があったのです。M証券と東証の間で、誤発注の責任をめぐり事件になったもので、過失相殺をみとめて、東証に107億円の支払いを命ずる判決なのです・・・
まー、この判決そのものについてはコメントしませんが、問題はここからです。
この事件をめぐって、NBLの今年1月1日号に判決文の評釈がのっかるのですが、以下正確を期するために上記のお知らせの文章を借りると「 ①その内容が他誌の判例コメントの内容と著しく類似していること、及び②その内容は、編集部によって書かれたものとしては、不自然に当該訴訟の一方当事者の立場に偏りすぎていると思われたことから、当社は社内調査を実施致しました。 その結果、本件記事は、編集部名義となっているものの、実際には、当該訴訟の一方当事者の関係者が執筆していたことが判明致しました。」とのことです。

まー、どちら側から依頼があったかはある程度推測がつきますが・・・。

仮に上のような事実があったとして、なにが問題なのか、いろいろ考えましたが、
問題A「当事者の一方だけの意見を載せるのはよくない」
問題B「仮に載せるとしても実際に書いた人の顕名で載せんといかん」
問題C「他社と二重投稿なのにそれをチェックしていないのではないか」
といったところでしょうか。いずれもごもっともかもしれませんが、問題Aにかんしていえば商事法務だって言論の自由があるわけですから、どっちかに肩入れした文章を載せてもそれはそれで編集部のご判断でしょうし、問題Bに関しては、世の中には、匿名でないと意見をいえない人(公務員とか)もいるから匿名自体はただちに悪いことではないだろうし、問題Cについては二重投稿なんてそれこそ、新しい法律ができたときの役人の解説なんか多くはそうだし、調査官コメントとか判例載せる雑誌だったらいくらでも実例があるだろうと思うのです。

たぶん、商事法務という会社としては、上のAからCが問題だと思って、こういうリリースをして、弁護士に頼んで調査するということになったのでしょうが・・・。
なんか、私にとっては、強烈に違和感のある対応です。

上の「お知らせ」を読んで私の感想は「商事法務は出版社として倫理的にやってはいけないことをやっているのではないか」ということを思ったのです。それは私見からすると上の問題A~Cのようなことではありません。

匿名で書いてもらった記事、ないし、編集部名で掲載した記事について、誰に責任があるかということです。当然、それは雑誌の編集部にあるはずです。だれがなんといおうが、編集部が批判を受け、仮に「実際に書いたのは誰だ」と聞かれても、絶対に執筆者名を口外しないのが、編集者としての倫理だと思うのであります。

たとえば、ある立法や判決について批判的にコメントが雑誌にのることはあることです。匿名になっているのは、編集部が書いたのではなくて(そういうときもあるかもしれませんが)、上記Bの下に書いたとおりその役所の規制を受けている会社の人が書いただとか、へたするとその役所の人だとか、判決書いたのが同僚だとかいろいろ浮世の義理で名前がだせないこともあるわけです。それを承知で原稿を頼んで、雑誌に載せているわけですから、編集者としては、その秘密はたとえ警察につかまっても守りとおすのが職業倫理だと思うのですが、違うでしょうか・・・。

まー、こんなことをやっていては、今後、NBLに匿名で執筆しようという人はいなくなってしまうかもしれません。

編集の技術論としては、私が思うのは、いくらなんでも他社とほぼ同じものを載せるのは(しかも匿名で)まずいので、書いた人に微妙に書き分けてもらう(まー、書くほうも持込みみたいなもんだから、それくらいは配慮してもいいと思いますが・・)とか、あんまり偏るとよくないので最初に判決文だけのっけて、後から解説は誰かに頼むとか、いろいろな方法があったような気がしますが・・・。たしかに、だれがみても、一方当事者と結託しているというのがまるわかりなのはわきが甘いといわれても仕方がないような気がします。

でも、持ち込み原稿を匿名で雑誌に載せてそれが「倫理違反」だとまでいわれると・・・。
雑誌を作る側としてはどうすりゃいいんだと思うのではないでしょうか・・・。

まー、私からすると商事法務さんは、以前勤めていた会社のご同業なわけです。その文章を載せた人も顔くらいはみたことがあるかもしれません。変なトカゲのしっぽ切りみたいなことはやめて見識をしめしてほしいものです。