情熱大陸と物理

ということで先日「情熱大陸」という番組を見たのである。腐敗と堕落への道を
突き進む我が国民間放送にあっていまや珍しい硬派の番組なのである。まー要す
るに各界の有名人を追跡してその実像を描きだすというような番組である。

その番組に昨年ノーベル賞を受賞した益川先生が登場されたのである。いままで
テレビでは、益川先生=ちょっと変わった人、みたいなゆがんだシェーマから報
道がなされていて、益川先生の実像と伝える番組はすくなかったような気がする

たしかに、理論物理や数学をやっている人はちょっと変わった人が多いのも事実
である。むかし、わたくしと同じサークルのなかにも某大学大学院数理科学研究
科(という部局は他の大学にはないような気がするので特定されるかもしれないが
・・・)の大学院生がいたのである。名をHさんという。だいたい、あいている時
間はなぞめいた記号をいろいろノートに書いたりしているのである。数学以外に
は、あまり知識がないらしく、わたくしはその人の引っ越しにともない中古の冷
蔵庫をもらったのだが、その方の運搬方法が悪く冷媒となっているフロンガス
全部とんでしまったり(要するに私はまったく冷えない冷蔵庫をもらったのである)
ということもあった。
一番驚いたのは以下のときであった。そのサークルというか組織というか結社で
は春、夏、秋、冬に合宿をやっていた。ある合宿(たしか秋の合宿でであった)の
ときにその方と風呂にいっしょにはいったら「あー、風呂なんてひさしぶりだ」
というのである。私も当時、銭湯通いであったので2~3日風呂に入らないこと
はあった。だから、ひょっとしたら1週間くらい入っていないのかと思い「どれ
くらいぶりなんですか」
と聞いたところ「この前、夏合宿いらいだ」というのである。要するに、この方
にとって風呂というのは年に4回くらいしか入らないものなのであった。

話は転じて、昔、湯川秀樹先生の本を読んでいて、なんで理論物理を選んだかと
いうのが書いてあって、「実験物理だと実験装置の購入なんかで予算担当部署や
業者さんとの折衝があって無理だと思った」というくだりがあった。ようするに
理論物理や数学を選ぶ人はそういった世間的なややこしい俗事を超越している
人が多いのである。たしかに、宇宙の成り立ちとか数学における無限大とかにつ
いて考えていると、風呂に入るか入らないかなどごく微小な世界なのである。

だからといってそういった方が変人だとか変わっているというのは当たらない指
摘なのである。当時は、風呂に入らない人は汚いなどと形而下的な思考におちい
っていたのだが、いまとなってはそれだけ学問に打ち込んでいたんだなと感心す
るのである。

益川先生のそのちょっと変わった言動がマスコミで面白可笑しく報道されていた
のである。なんとなく、変人というシェーマから見た報道が多かったのである。

ところが、この情熱大陸という番組は正面から益川先生の生活をとらえるという
意味で画期的な番組であった。最後に先生の別荘の本棚を紹介する場面があった
のであるが、音楽、言語学、経済学、歴史など幅広い教養を身につけられている
方だと感じたのである。

話がいつにもまして散乱してきたので、もう一度整理すると、
① 物理や数学をやっているからといってべつに変わった人ではない。多くは常
識ある普通の人である。
② でもときどき、社会の常識を超越した方がいることはたしかである。(例、数
学者で有名な岡潔先生とか・・・)
  別にそれは変人だからではなくて、学問に集中した結果であり偉大なことで
ある。
  
③ やっぱりそういった基礎的な研究を地道にやっている人をちゃんと支える社
会でありたい。
 工学なんかと違ってすぐには金にならないのである。岡潔先生も一説によると
研究に専念するために授業するのがめんどくさくなって大学の教員をやめてしま
っていた時期があるのであるが、周りのサポートで大研究を成し遂げたのである。
すぐ金にならないことでもちゃんと支える社会でありたい。