蟹工船がはやる今

 いま、小林多喜二の「蟹工船」が売れているらしい。いまのワーキングプアと当時の蟹工船、どちらも悲惨な労働実態にかわりはなく、それをリアルに描いた蟹工船が共感をよんでいるのであろう。私も、中学時代に読んだ記憶がある。そんなおり、本屋をうろうろしていると「超訳資本論』」(的場昭弘)なる書物を発見。
 そもそも資本論というと、マルクスの書いた左翼の、社会主義の本と思っているかたがいるかもしれない。しかし、資本論という本は、資本主義市場経済を科学的に分析し、その法則性を解明した本である。私の尊敬する宇野弘蔵先生という有名なマルクス経済学者は、「資本論をはじめとする経済学の原理論の研究によって、資本主義社会における恐慌の必然性が明確になる」とどこかで述べられている。いま起こっている労働者の貧困化とか物価の高騰とかすべての現象は経済学の研究によって、その必然性があきらかになる。要するに、「資本論をよむと、なぜ、自分たちの賃金があがらないか、物価が上がって生活が苦しくなるかすべて、その理由がわかる、そのために資本論をちゃんと世に紹介しよう」という思いで、この的場先生という方はこういう本をお出しになったと思う。正直、こういった本が売れるといいなと思う。

そこで思い出したのが、哲学者の廣松渉先生。1990年の6月に「今こそマルクスを読み返す」という本をお出しになったことである。このころは、1989年にベルリンの壁が崩壊して、1990年には、東ドイツが西ドイツに吸収されてしまう。また、1990年の2月には、リトアニアソ連から独立を宣言し、1991年には、ソ連の保守派のクーデーターとかいろいろあって、ソ連が崩壊。ユーゴスラビアも崩壊。社会主義陣営は総崩れみたいな状況であった。バブル景気が1991年2月までだったので、日本は好景気のまっさかり。「やっぱり資本主義がいい。社会主義はよくない」というのが大勢であった。いまから考えると、そのときに「マルクスをよみかえす」などといっていたのだから、すごいことだと思う。思えば、廣松先生は、バブルの崩壊から、その後の失われた10年のことまですでにある程度予想されていたのではないか(確か1993年くらいに、先生はお亡くなりになったはずである)。

思えば、私が資本論の文庫本を買ったのが高校生のとき。いま思えばずいぶんませていたものである。結構当時でも手に入れるのが難しかった、青木書店から出ていた長谷部訳という一番学術的な訳(たとえば、他の訳だと「直接的生産過程の結果」ということがあると、長谷部訳では、「直接的生産過程の諸結果」となっている場合があった。要するに、単数形と複数形を厳密に区別し、訳しわけていたのである)だった。引っ越しを何回かしてしまったので、いまでは、もう手放してしまった。

今度、図書館にいったら、蟹工船読んでみようかなと思ったミラーでした。