インターネット上での転売行為

ということで、先日、夜ニュースをみていたら、
インターネットジブリ美術館のチケットを転売して、つかまった人がいるとのこと。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090219-00000129-yom-soci



そういえば、前から、ときどきこういった事件があることは知っていたが、なぜ、逮捕されるのか、根拠となる法令はしらなかったので調べてみようと思った。

今回の事件は、東京で起こったらしい。新聞等によると根拠法令は迷惑防止条例とのこと。ほんちゃんの名前は結構ながたらしい。

■参照条文1

「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和三七年一〇月一一日 条例第一〇三号)

(乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止)

第二条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。

2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。」



という条文があるのである。「公共の場所」でなければよいので、たとえば、ちゃんと店舗を私有地上に構え、そこで販売するようなことは別にOKらしい。


また、自分でいこうと思ってコンサートチケットを買って結果としていけなくなったので、販売するような場合は、そもそも転売目的で取得をしていないので、販売してもかまわないはずである。

ただ、疑問なのは、「ちょっと小遣いかせぎ」にチケットを買って、ネットで売るような場合である。やっぱりこれも、条例に触れるのだろうか。みんな違法性の認識はほとんどないはずである。

でも、

刑法第38条3項「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。 」とあるから、法の不知として罰されるのだろうか。

そもそも迷惑防止条例でダフ屋さんが規制されているのは、暴力団の資金源になっているからだと思う。暴力団が、威力を背景にチケットを買占め、不当に価格を吊り上げ、販売するというのが、典型的な違反事例だと思う。

たとえば、野球のチケットを5枚くらい素人さんが買って転売したとしても、それで、迷惑が誰かにかかるのだろうか。行きたい人には迷惑がかかるかもしれないが、チケットを自分で予約できなかった人にとっては、メリットがあるはずである。

今回の事件も儲けはそんなに莫大ではない。わざわざ取り締まって逮捕までする必要が本当にあるのか・・・・。

だいたい、条例ということは、ダフ屋行為が規制されていない府県もあるはずである。

たとえば、京都府においては、このような条例がなくて、物価統制令で検挙され、有罪になった事案があるようである(注)。物価統制令・・・。

物価統制令(昭和二十一年三月三日勅令第百十八号)

第九条ノ二  価格等ハ不当ニ高価ナル額ヲ以テ之ヲ契約シ、支払ヒ又ハ受領スルコトヲ得ズ

第十条  何人ト雖モ暴利ト為ルベキ価格等ヲ得ベキ契約ヲ為シ又ハ暴利ト為ルベキ価格等ヲ受領スルコトヲ得ズ

第三十四条  第九条ノ二又ハ第十条ノ規定ニ違反シタル者ハ十年以下ノ懲役又ハ五百万円以下ノ罰金ニ処ス」





だいたい、カタカナ書きの勅令というのがまだ生き残っているのが結構難儀なことだと思う。

上に掲げた迷惑防止条例の場合は、乗車券や入場券に限定されていたが、物価統制令は制限がない。チケットの転売がいけないんだったら、たとえば、宝石とか、美術品なんで、暴利といえるものがいっぱいあるような気がする。ひょっとしたら、美術品の転売なんか、暴利行為として取り締まられる可能性が理論的にはある。

だいたい原価の何%を超えたら、暴利なのか定義がないから、恣意的に運用されるのではないか。

ダフ屋側の弁護士は、明白性の原則に違反するとかそういった主張をしなかったのだろうか。なにやらゆかしい感じがするのである。

基本的に価格というのはマーケットで形成するものではないか。

他の人をだしぬき売れそうで安いものを仕入れ、転売して利益をかせぐというのは、商売の常道のような気がするが・・・。

商売だから売れ残るリスクもあるだろうし、下手すると定価以下でしか売れないこともあるだろうし。トータルで考えればそんなにもうからないかもしれない。儲かった場合は、その人の判断力、行動力がすぐれていたからではないか。

統制経済でない今日時代遅れの規制ではないか。

こういった規制があるのであれば、紀伊国屋文左衛門なんかは、みかんを不当に買占め、品薄に乗じて東京で暴利を得た大悪人になるのではないか。

あくまで、お米の配給とかのあった戦後の超インフレの抑制策という一時的な立法がいまだに残っているというかんじを受ける。

いいたいこととしては、暴力団は別としてかたぎの人のやる転売行為に対して規制するのはよくない。需給関係で値段をきめるべき。

そもそも、物価統制令なんて時代遅れ。ただ、健全に市場価格が決まらない場合がある。典型的なのは、阪神大震災の時、どさくさにまぎれて、おにぎり一個を1000円とかで売っている人がいた。物価統制令ができた戦後すぐもそんな感じだったのだろう。そういったことは取り締まったほうがよい。

最後に、ちまちましたサラリーマンの副業を取り締まるのだったら、警察にはほかにやることがあるような気がする。生活安全課(昔でいう防犯課ね)の所管で考えても、薬物の問題とか、銃器の問題とか・・・。



(注)京都の事案は発見できなかったが、東京のダフ屋行為にたいして、物価統制令が適用された事例として、最三小決昭36・2・21刑集15巻2号378頁がある。